成東町図書館第一回文化講演会
「ミステリィで逢いましょう」
2000.9.23(土)



【下】

 森先生は今までの講演会でも「前もって考えてくるのはジョークぐらいです」なんておっしゃっていましたが、今回はその集大成とも言うべきお話が聴けました。ここ20年間くらいのジョークいろいろみたいな感じでOHPにまとめられています。題して、

「ジョークの軌跡」

大きく3つ、「だじゃれの系譜」「論理の系譜」「リアリズムの系譜」というカテゴリィに分けられていて、それぞれにはさらにいくつかの系列が含まれており、横にジョークの具体例が書いてあります。まとめると次のような感じです(便宜的に番号を振っています)。

●だじゃれの系譜  01)単純繰り返し系 → ウルトラマン
          02)複雑一本系   → 悪の十字架
          03)盲点つき系   → 果物チーム一発逆転
          04)勘違い系    → 巨人の星
          05)ほのぼの愛情系 → コーヒー好きの犬
          06)格調落語系   → 自殺名所を予約
●論理の系譜    07)日常繰り返し系 → シュウマイおじさん
          08)コスプレ系   → マグマ大使
          09)シュール系   → 冷蔵庫にゾウ
●リアリズムの系譜 10)思いつけない系 → 生協で割れた茶碗
          11)とことん妄想系 → 駆け込み乗車


まず01)02)については詳しく述べられず「20年くらい前に流行ったやつですね」とおっしゃって軽く流されただけでした。後ほど判明したところによると01)は「ウルトラマンが好きな飲み物は?」「ジョワッ」というジョークなのですが、これ若い人はジョワ自体知らないかもしれませんね(笑)。そして02)は私が小学生の頃流行っていた記憶があります。つまり「開くの10時か」というだじゃれ。
03)04)あたりは15年くらい前に流行ったそうで、03)は「9回、ツーアウト、ランナーなし」という説明しかされなかったと思います。これに関しては未だにどこが逆転なのか解らないままです・・う〜ん(苦笑)。そして04)は、結構有名なあれですね。「思い込んだ〜ら〜」という歌詞が「重いコンダ〜ラ〜」に聞こえて、飛雄馬が引いているあのグランド整備をするやつを「コンダラ」だと勘違いしたというジョークです。このあたりのジョークは知っている人と知らない人が会場の中で分かれるようで、知っている人は森先生がオチを言われる前からクスクスと笑い声を出したりしてました。
それから05)は、森先生が98年6月の講演会で考えてこられたジョークで、「空は澄み柔らかな日が射す昼下がり・・幸せそうにコーヒーを飲む犬は・・」という感じ(正確ではありません)の情景描写を森先生はおっしゃり一言、「カフェ・テリア」。何回か講演会で言われているジョークですでに知っている人も多いと思うのですが、やはり一般募集で来た人も多いようで、結構受けていました(笑)。
そしてだじゃれ系列の最後、06)ですが、次のような感じ。「ある崖があって、そこは自殺の名所として有名でした。あまりにも有名になって人気の場所になってしまい、予約をしないと自殺できないようになりました。そして、飛び込みの客はお断り・・」というもので、森先生がおっしゃるには、「なんとなく格調高いでしょう?(にっこり)」でした。これもかなり受けていて、みんなそのジョークの格調高さに感心していたようすです(笑)。

次は論理系列のジョーク。07)の話もいろいろなところでされていますね。「女の子が10個入りのシューマイを買って帰ってふたを開けてみたら9個しかありません。不思議に思い女の子がふたを見るとそこに1個くっついていました」というのがまずあって、次に「また女の子が10個入りのシューマイを買って帰ってふたを開けてみると、今度は1個しかありません」という展開になり、この答は「持って帰ってくる時に男の子が振りすぎたので全部くっついて1個になってしまっていたのです」となり、森先生いわく「ミステリィで言えばいわゆる新本格みたいなもので、ちょっと普通では考えられないような現象ですね。それはないやろと突っ込まれそうな(笑)」とのこと。さらにこのジョークは続いて「その女の子のおじいさんが亡くなってお葬式が行なわれました。もちろんおじいさんは棺の中に入っていて、いよいよ出棺というとき、遺族との最後の別れのためにふたを開けてみると、おじいさんはいなくなっていました・・」と同じパタンが繰り返されることによって面白さが増すジョークです。これにはまだ続きがあって「その女の子が大きくなって恋人と会ったときに背中におじいさんが・・」みたいな展開だったと思いますが、もう記憶が曖昧なので全然違うかもしれません。すみません、最後のは想像(創造)だと思ってください(苦笑)。
08)のジョークはマグマ大使(これを知らない人もいるでしょう)が何かを拒否されるという話だったと思います。それは今では普通になってきたので面白みがないですが、「金髪だから」というのがオチだったとか。同じようなものに鉄腕アトムバージョンもあったみたいです。その心は「髪が立っているから」ですね。
09)も99年3月東京の講演会で森先生が話されたことでした。「冷蔵庫にゾウを入れる手順」というもので、これには以下のように3つの手順があります。

1.冷蔵庫のふたを開ける → 2.ゾウを入れる → 3.冷蔵庫のふたを閉める。

う〜んこれだけでも十分シュールなんですが、このジョークには続きがあって、「冷蔵庫にキリンを入れる手順」というのがあります。これには4つの手順があります。森先生は「キリンの首を折るとかじゃないですよ(笑)」とおっしゃりつつ、その手順を説明。

1.冷蔵庫のふたを開ける → 2.ゾウを出す → 3.キリンを入れる → 4.冷蔵庫のふたを閉める

森先生が2番目の手順をおっしゃったところで会場は爆笑でした。アメリカンジョークではこういうのが多いらしく、同じパタンで皮肉っぽいものに「アメリカの大統領とロシアの大統領を招待する手順」というのがあることをおっしゃいましたが、詳しくは述べられませんでした。これについては東京の講演会で話されたのですが、正確には覚えていないので概要だけ書くと、「はじめアメリカの大統領を招待し、次にロシアの大統領を招待するときは、アメリカの大統領に断わりを入れるという手順が増える」というジョークだったと思います(すみません曖昧で)。

最後がリアリズム系列で、10)はちょっと普通では思い付けないようなジョークに分類されるもので、例として挙げられていたのが、森先生のご友人(古川氏)が実際にやったという次のようなエピソードでした。
その古川氏は当時アイスホッケーのキーパをしていて大食いだったそうです。ある日、生協で開かれた大食い大会に出場してご飯を何杯もお代わりするんですが、一度に茶碗いっぱいご飯をつめようとしてどんどん押し込んだら茶碗が割れてしまったというちょっと信じられないような話。「こういうのは普通、考えつかないジョークですね。思い付いたらすごいです」とおっしゃる森先生。「作品の中でこういう考えられないようなジョークが出てきたら、実際にあったことだと思ってください(笑)」とのこと。
そしてラストの11)は軽く、「駆け込み乗車をしたら、ドアに挟まったのがカツラだったとか、そういうどんどん妄想を膨らましたジョークですね」とおっしゃって、一連のジョークの軌跡のお話は終わりです。ここで森先生は一言「眠気は覚めましたか?(笑)」

さてさて、講演会も終わりが近づいてきました。次に森先生がされたお話は工学系の話でした。題して、

「回転と直線」

例えば自動車の場合。エンジンの機構というのは燃料を爆発させてピストンを直線運動させて、それが回転運動に変えられて、タイヤに伝たわり、最終的には自動車自体は直線運動をするという、エネルギィの変換が何ステップか行なわれています。これがロータリィエンジンの場合だと、はじめの直線運動が省かれるわけです。飛行機を見てみると、プロペラ機のレシプロエンジンも同じで(「レシプロ」とは「往復」という意味だそうです)、爆発によって直線運動を生み、それを回転運動に変えてプロペラを回し、その力で空気を後方へ押して機体は前に直線運動をしています。つまり回りくどいことをしているわけですね。そこで、いっそのこと爆発の力でそのままタービンを回して空気を後方へ送り出そうと考えられたのが「ジェットエンジン」だということでした。これがもっと手順を省くと爆発の勢いをそのまま推進力とするロケットエンジンになっていくというお話。
このように、エネルギィ変換の手順を省いて合理化していくのが工学の発展形式だそうです。そして、それは生命の運動に近づいていっているのだとか。生命の中には車輪を使って移動するとかそういうものはいなくて、それは血管のような管を持っていて、回転するとねじれてしまうからだ、という以前にも聴いたお話を再びされる森先生。つまり生命は無駄なエネルギィを使わないように進化してきたということでした。

それから、以前の講演会でも何回か登場した飛行機の形の話へ。まず、飛行機には主に2つの型があり、トラクタ型の飛行機と、プッシャー型の飛行機があることをOHPを使って説明されました(イラストはプロペラ機)。トラクタ型はコクピットより前にエンジンがあり、いわゆる機体を引っ張って飛行するタイプで、プッシャー型は後ろにエンジンがあり機体を押すタイプです。今ある飛行機の大部分を占めているのはトラクタ型ですが、今回は細かい説明はされませんでしたが、プッシャー型の方が尾翼が前にあって揚力が稼げるので、主翼の面積を減らすことができ、機体を軽くすることができるので、理論的にはトラクタ型よりも効率が良くて有利だということです。ライト兄弟の初めの飛行機はこの形だったこと、そして、なぜ今はトラクタ型が多いのかについて森先生はいくつか説明されました。大西洋横断で優勝したグレリオ(?)の乗っていた飛行機がこの形だったことや、飛行中にエンジンのメンテナンスができるとか、プッシャー型だと離陸の時後ろのプロペラが地面に接触してしまう(プロペラが一番高価)からとか、そういう理由もあるということでしたが、やはり森先生がご自分で一番気に入っておられるという考えは、「鳥がこの形をしているから、なんとなく安心できるから」だということでした。これは何度も言っておられますね。

最後はキーワードにあった「慢心」ということで、内容はお馴染みになった「インターネット検索ヒットランキング」「作品紹介」でした。
ヒットランキングの方は、今回新しくOHPを作ることができなかったらしく(秘書さんがいつも作っているそうですが忙しかったらしい)、前回6月の講演会で使ったものを森先生はそのまま見せられ、軽く解説。コンクリート関係の用語のヒットランキングと、作家の名前のヒットランキングが書かれています。森先生は「自分の名前は自分の専門の言葉よりもヒット率が高いですね」と言われ、さらに「あ、でもこれは名前が取り上げられているということだけで、悪いことが書かれているページも数えられていますよ(笑)」なんておっしゃっていましたね(笑)。ちなみにこのOHPの右下にはノンタ君が描かれていて、「これは世界一可愛いと言われている、えっと森が言っているんですが(笑)、熊ですね」と説明される森先生でありました。
それから作品紹介ですが、今までの作品に関しては簡単に説明されて、やはりお気に入りは短編集「まどろみ消去」だということでした。これからの予定も盛り沢山で、まだまだ森ミステリィが堪能できそうです(幸せ)。そしてこの時点で執筆だという「スカイ・クロラ」については「ミステリィでもSFでもなく、戦記もので空中戦をしている話」だそうです。そして「いわゆる実験作品とか異色作とか言われるようなやつで、これで森の評価も地に落ちることでしょう(笑)」なんておっしゃっていましたが、森先生ならきっと素敵な作品に仕上げてこられることでしょうね(わくわく)。これが読めるのは来年の夏ですか(わくわくわくわく)。

実はまだあります。これが本当に最後のOHP。

「森ミステリィ上級編(気にしない)」です。

各作品には、本編とは関係ないけども謎になるようなものを必ず盛り込んでおられるそうで、そのヒントとなるような言葉が作品名の横に書いてありました。そして森先生はひとつひとつ説明されていきます。しかし、この内容はかなりネタばれギリギリで、さすがに上級編だけのことはありますね〜(にっこり)。もうサービスし過ぎってくらいの内容です(うわーい)。森先生は「ここだけの話ですよ。遠いところまで来られたということで、おみやげとして持って帰ってください。ただ他で言わないようにしてください。忘れてくださいね(にこ)」とおっしゃっていたので書いて良いのかどうかはばかられますが、少しだけ書きましょう。まずは森先生自身がしゃべられて結構出回っているものから、『冷たい密室と博士たち』に関しては「フェラーリに右ハンドルはない」とか、『笑わない数学者』に関しては「最後に笑っていたのは誰か?」とか、もう分かっちゃいそうなギリギリのことを解説されるのです。しかしまだ未読の人もおられることを心配されてか、森先生は「分からない人は気にしないでくださいね」ともおっしゃっていました。シリーズを読み通しているから分かるものとして、『封印再度』で「立ち上がると言ったのは誰か?」なんていうのもあったり、『数奇模型』に出てきたロボットは「ナノクラフトのロボットじゃないか」とか、『月は幽咽のデバイス』に出てきた「動物の正体は?」などといった、また再読して確認する必要のある謎なども提示されました。ひょっとするとこれらのおみやげで余計に謎が深まったのかもしれません。もちろん、楽しみが増えるわけでこれは幸せなことですね(笑)。

そんな余韻を残しつつ・・最後の15分ほどは質疑応答の時間となりました。今回は館長さんが司会を務め、「遠くから来られている方を優先します。我こそはという方どうぞ」なんておっしゃるもなかなか手が上がらない様子でした(しかし後ほど聞いたところによると手を挙げておられた方がいたようです)。質問は今回のOHPでの誤植に関することがいくつかあり、その質問の中で出た『ぶるぶる人形にうってつけの夜』について森先生が「建物の形には気付きましたか?」という核心的なことをおっしゃっていたのに(どきどき)、それを遮るかのような館長さんの声ですよ(間が悪いのか聞こえてなかったのか)。早くも次の質問を要求されて、話の途中の森先生は苦笑されていました(笑)。また他の質問に、「『魔剣天翔』に出てくる関根画伯の絵はどんなものをイメージされているのでしょう?」というのがあり、アンリ・マティスポール・セザンヌの様な絵(後日、この質問をされたさんご本人に画家の名前を教えていただきました。感謝です)をイメージされているとのことでしたが、ここでは思わぬ話も聴けました。実はこの関根画伯に関する話はVシリーズの次回作第6弾に続くのだそうです。そう言えば第6弾は『恋恋蓮歩の演習』というタイトルで『魔剣天翔』に出てきたあるものの名前が「エンジェル・マヌーヴァ」つまり「天使の演習」だったということに今気付きました。なるほど、そういうつながりがあったのですね(嬉)。

午後4時、時間が来て講演会は終了。森先生は降壇され、会場は大きな拍手。盛り沢山の講演内容にしばらく放心状態でした(笑)。今回も森先生のお話に夢中になり、楽しいひとときがあっという間に感じられました。その後、近くにおられた西園寺月光さんと名刺交換、ホールを出たところでTani-Booさんとも名刺交換をさせていただきました。帰りは雨。成東の駅に着くと、人の数が明らかに駅の許容範囲を越えていました(笑)。おそらくほとんどの人が講演会帰りだったことでしょう。こうして講演会の余韻を保ちつつ、東京での森ぱふぇオフラインミーティング(お食事会)に向かったのでした。このときはまだ、この後さらなる感動が待っているとは思いもよりませんでしたが、それはまた別の話(オフレポートにて)。

★この講演会を主催してくださり、かつ森ぱふぇ会員のための予約席を確保してくださった成東町図書館の方々には感謝の一言です。また、会員のために事務的なことにご尽力いただいた森ぱふぇスタッフの方々にも感謝いたします。そして何より、いつものように楽しいお話をご提供くださり、さらに会員のために講演会レポートの公開を許可してくださった森先生には、心よりの感謝を申し上げます。ありがとうございました。

・・・つたない駄文を最後まで読んでくださったあなたにも感謝をこめて。

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