成東町図書館第一回文化講演会
「ミステリィで逢いましょう」
2000.9.23(土)

▲レポート▲

★2000年9月、千葉県成東町の成東町文化会館のぎくプラザホールにて行なわれた森博嗣先生の講演会の模様をなるべく時系列に沿って記述しています。また、やはりというべきか個人的な感想や想像が混ざっていること請け合いです。予めご了承願います。なお、森先生もおっしゃっているように講演内容を記述し公開することは、著作権の侵害のおそれがあります。ただ、森ぱふぇでの公開にあたっては森先生の許可をいただいているということなので、前回よりは少しは思い切ったことが書かれてあるかもしれません。まあそれは自分の中の問題なので読むだけなら違いはないでしょう、たぶん(笑)。


【上】

 電車を降りる前から、車窓の景色で分かっていましたが、成東駅に降り立つと予想よりも2割増しくらい田舎でした(笑)。懐かしささえ漂っています。嫌いではないですけど(笑)。しかし、それに比べて降りる人の数が多い。ほとんど今日の講演会に行く人たちではないかと疑ってみましたが、あながち間違ってなかったかも。天気は曇り。それらしい人の流れに乗って講演会場成東町文化会館のぎくプラザホールに到着。すでに多くの人が集まっていました。知ってる顔もちらほらと。森ぱふぇ枠の受付でチケットを受け取り満足してたら、それを持っていってさらに整理券をもらわないといけないシステムだったということを忘れていました(恥ずかしいなあ)。いずれにしてもホールに入ったのは最後の方で、入口で森先生の名刺をもらい、自分の名刺は係の人へ。ホールは小さめの映画館という雰囲気で、小劇ができるくらいの立派な演壇が前方にあります。入って前の方の左側の席に着いたところでraraさんに声をかけられ、「最前列がまだ空いてますよ」と誘われました。わーいと、お言葉に甘えて最前列に行ってみると、ビスさんとかれいはちさんとか見知った顔が何人か。早速ここで名刺交換です。はじめてお会いするクルミさんをはじめ、みなさんわざわざこちらの席まで来ていただいて、まるで有名人になった気分(自意識過剰)。いやあなんだか、座ったままで申し訳ありませんでしたです(恐縮)。それから講演開始までの30分くらいは、森先生のご登場を今か今かと待ちつつ年齢の話やお互いの近況報告とか、今後の予定などで話をしてました。やがてホールの右前の壁にあるデジタル時計が午後2時を告げ、いよいよ開講です。

 さあ、いよいよ森先生が舞台の下手から出てこられ・・・と思ったら、えらく頭が薄くて歳をとって眼鏡まで掛けています。ちがーうちがーう。全然森先生じゃないやん。誰かと思っていたら成東町図書館の館長さんでした。まずはその挨拶のようです。いきなり出てこられたので、まだ森先生のお姿を知らない人が見たら、この人だと勘違いしてしまわないだろうかと一瞬心配してしまいました(笑)。う〜んなかなか味のあるおじいさんなんだけど、こっちとしては早く森先生を出して〜てな感じ(うずうず)。その館長さんの挨拶が終わって、今度こそようやく正真正銘の森先生かと思いきや、がーん、次は主催者の挨拶だそうで・・じらすじらす。その主催者の挨拶が結構長くて、成東町のことや、この図書館のこと、ホールは365席あること、今日は11都道府県、北は北海道、南は福岡(後ほど鹿児島から来ていた方がおられたことが判明)から聴講者が来ていること(すごいなあ)、またこのホールにこれだけ若い人が入ったのは初めてだということ(笑)、そして森先生を呼ぶことになった経緯などを話されました(長いよお)。ミステリィが今なぜこんなに人気があるのか不思議に思って図書館の若い人に聞いたところ、森博嗣先生の話題が出て招待することになったらしい。そして話は森先生の紹介に移り、第一回メフィスト賞を受賞されたことや、今までにないミステリィを書いていてその斬新なトリック論理的な解決でこれほどの人気作家になられたことなどなど、もういかにも型通りという表現で、最後の方なんかは森先生がよく「自分ではこんな表現は使えない」(例えば『警鐘を鳴らす』とか)とおっしゃっているような修飾語の連発で、会場の笑いを誘っていました。たぶんあれはわざとでしょうね。「大学でお仕事をされる傍ら多くの作品を描いていらっしゃる事の方が私にはミステリィです」なんてこともおっしゃっていました。面白いおじさんです。ああ、前置きが長くなりました。そのおじさんに呼ばれて、今度こそ、本当に、待ちに待った、森博嗣先生のご登場です!

 盛大な拍手で迎えられ森先生が下手から中央の演台へ。いやあいつ拝見しても小さくて可愛いです〜(ドキドキ)。最前列からだと演壇を見上げる形になるので、演台に隠れて先生のお姿が見えないくらい小さいです。いやいやそれは言い過ぎ(笑)、ちゃんとお顔は拝見できました。まず自己紹介をされる先生。「え〜、遠いところ、わざわざここまで来たわけですけど・・」とはじめから聞かせてくれます(笑)。ああいいなあ、この感じこの感じ。やっぱり森先生だあとすでにほんわかモードの私。ご本人の近況報告でも書かれていることですが、前日から東京入りされていて、京極夏彦氏の展示会に行かれたり、乱歩賞のパーティがあったけど主催が講談社だということを知らなかったりとか、「そういう生活をしている森です」という自己紹介でした。

この日は雨模様だったのですが、まずはご自身が雨男だというお話からでした。どこか出かける度に雨に降られるそうです。それに遊園地に行くとそこが大抵つぶれるそうで(笑)、レオマワールドとかがその例。だから先生にはつぶれて欲しくない遊園地はすすめてはいけないということです。そしてうしろにスクリーンが降りてきて(タイミングが早かったみたいでしたけど)OHPによるお馴染み本日のキーワードのご紹介。以下の6つだったと思います。

・入門(Primer)
・原理(Principle)
・私的(Private)
・素数(Prime number)
・霊長類(Primate)
・慢心(Pride)


目が悪くて良く見えなかったので英語の方は後ほど調べました(間違ってるかも)。ここで先生は、最近はウェブ上で講演内容が克明に書かれてしまうので(ここみたいに)キーワードと違った話をして、けむに巻くように話して終わってみたら何の話だったかわからなくするように講演をしてこられたということを話されつつ、すばやくOHPを下げられました(いや〜ん、すでに巻かれつつある)。それから最近は出過ぎてしまったので、もう今後は写真は撮らないとのこと。そして次に先生は思ってか思わずかご自身のことをミステリィ作家だと名乗ってしまい、「あ、今ミステリィ作家って言いましたね(笑)。言ったことはないんですけどね」とおっしゃって弁解されてましたが、ほんとはわざとかもしれません。ファンサービスだったのかも、とか妄想は広がるばかりです(笑)。ちなみに今回は少し気合いを入れてOHPを作ってこられたそうです。

まずはじめは、小さい頃から好きでよくやってらしたという「頭の体操」関係のお話。
結構有名らしい論理クイズものに「3人の旅人」というのがあって、旅先でキャンプして寝て起きたら顔が黒く塗られていて相手の顔を見て笑っていたけど、ひとりがふと自分の顔も黒いのではないかということに気付いたという話です。OHPによるとこれは論理的ミステリィの基礎とのこと。問題になるのはどうして気付いたのかというところで、3人をA、B、Cとして考えると次にようになるということでした。

▼Aは自分の顔だけは黒くないと思っている。だからBとCの顔を見て笑う。
▼しかし、Aは考える。Bも同じように自分の顔は黒くないと思っているはずだと。Cを見て笑っているのだと。
▼さらにAは考える。当然Cも自分の顔は黒くないと思っているわけで、Bを見て笑っているのかなと。
▼しかし、Aはまた考える。自分の顔は黒くないし、Bが自分の顔は黒くないと思っているはずだとCも考えるはずだと。
▼となると、Cは、Bが一体誰の顔を見て笑っているのだろうかと不思議に思うはずなのにそんな様子はない。
●そしてAは気付く。自分の顔も黒いのだと。


正確かどうか自信がありませんが、だいたいこのような流れだったと思います。森先生いわく、「このように相手の気持ちになってそこまで考える人間の思考が怖かったですね」ということでした。
その下に書いてあったトリックの基本となるのが、「道路に迫ってくるヘッドライト」という、道路に立っていたら二つのヘッドライトが迫ってきてもうダメだと思ったけど助かったという話。答えは2台のオートバイのヘッドライトだったとか、聞いてしまえば何でもない話なのですが、トリックとはそういうもので、この部分だけを取り出したもので、「探偵トリッククイズ」という本があったそうです(今でもあるのかな)。いくつかあるクイズで使われる道具はだいたい決まっているそうで、利き腕、氷、色盲、飛行機、バスタブ、などなどそういうものが毎回登場するとか。そして、この本で森先生が一番怖かったのは、挿し絵といて描かれているイラストだったそうです(笑)。殺人現場とか、妙にリアルに描いてあるんでしょうね。
その次に書いてあったのは「コロンボ」とか「Xの悲劇」とか・・。しかしこの辺は省略されて次へ(「コロンボ」は後ほど登場します)。
「小説においてミステリィが持っている特性とは何か」という題で、8つほど項目があって、それぞれについて短い返答がついています。「」内は先生の補足説明です(しかし記憶が曖昧なため不正確で、まったくの嘘を書いている恐れもあり)。

1)何か隠されているものがある。→普通あるぞ。
 「小説ならミステリィに限らず、何かは隠されていますよね。隠さないと話ができません」
2)事件が起きて解決。→何が事件で何が解決か。
 「何でも事件だし、事件だと思った人が納得すれば、それは解決でしょう」
3)探偵がいる。→いればいいのか。いることがすなわち探偵か。
 「哲学的ですね(笑)」
4)表現がフェアである。→言葉というのはそもそもフェアではない。
 「今までに書いた作品で、フェアじゃないと思うのは・・ないですね。いずれもちゃんと言い訳が用意してあります」
5)最後に驚きがある。→驚くことの意義は?
 「驚きたくないという人が結構いるんですよ。スバル氏なんかはそうで、犯人を知っておいてから読みたいタイプなんです」
6)道理を見せることの心地よさ。→適度な道理にすぎない。
 「こういうのは隠してない方が見せやすいです。コロンボだって初めから犯人が分かっているから後の犯人との会話がスリリングになるのであって、隠していたらただ容疑者のひとりとしゃべっているだけになってしまいますからね」
7)一度読むと、再読のとき違う見方ができる。
 「これはあることを隠したまま最後まで話をもっていくからそうなのであって、逆に隠していることのデメリットがあります。これを今言えたらもっと楽に書けるのになあということがよくありますね(笑)。例えば『女王の百年密室』のあの場面は、主人公が実はああだと知って読むと凄い場面だということが分かるのに、一度読む段階では分からないわけですから。つまりそれが書けないのが、隠してることのデメリットですね」

というふうに話は進みましたが、『女王』の話では結構ネタばれギリギリでしたね〜(にこにこ)。結局森先生の中ではミステリィというものを特別に意識しているわけではないということでしょうか。そういうのは、森作品を読んでいると確かに感じられることですね〜。どれも素敵で、もう「森博嗣」というひとつのジャンルだと言っても過言ではないでしょう(ズバリ)。残念ながら最後の8つめの項目は小さく書いてあってので記録できていません(何だったかなあ)。

さて、ここで少し話は変わり、メールのやり取りでの話題に。そして実は「メールは今でも・・・」というここだけの話をされましたが、これは言えませんね(分かるかもしれないけれど)。メールでの質問で、前にも聞いた話だったと思いますが、考えさせられる意見ということでいくつか挙がっていました。
「萌絵は未成年なのにタバコを吸って良いのか?いつの間に吸える年齢になったんだ?」
という質問があって、先生はミステリィのキャラクタは歳をとらないものだと思っている人がいるということを知って新鮮だったとか。そこで話に出たのは「サザエさん」でしたね(笑)。「カツオ君とか毎年夏休みの宿題やってますからね」と森先生がおっしゃっていたかどうかは定かではありませんが、近いニュアンスです。個人的なことですが、これについては以前考えたことがあって、テレビで放映されたサザエさんのエピソードは今までにおそらく4000話近くあるわけですが、キャラクタが歳をとっていないことから単純に1年365日で割っても、1日に11話くらいづつエピソードがあることになるでしょ。忙しい人たちだなあと(笑)。ああ、そんなことは全然関係ないですね、すみません。講演会の話に戻りましょう。えっと、それから、
「自分の知っていることばかり書いていませんか?」
という質問もあったそうで、これには「たぶん、そのとおりだと思います」と答えられたとか(笑)。さらにおっしゃるには「好きなものは書きますけど、おそらく嫌いなものは無意識に書いていないはずで・・スイカが今までに出てきましたか?(笑) 書いてないかもしれないですね」とのこと。会場には笑いが絶えません。次もこの流れで前回でも紹介された授業での質問についてです。例えば以下のようなもの。「」内は先生のコメント。

質問:この授業のように専門に直接的な関係の薄いものは何割くらい役に立ちますか?
この授業のようにって失礼な質問ですよねえ(笑)。『あなたは何割くらい役に立ちますか?』という質問に答えてくれたら答えてもいいかもしれません」

質問:ドラえもんの手は何kgまで持ち上げることができますか?
「ドラえもんの手を使って誰が持ち上げるのかが問題ですよね。主語がないです。赤ちゃんが持ち上げるのか、クレーンが持ち上げるのか言ってもらわないと答えられません。こういうこと言ってかわすわけですね(笑)」

質問:どのくらいの強度があれば建物は地震で壊れないか。
「20年以内に建った建物の中で地震によって人が死んだことは今までないはずです。安全です」

という今までの話が、入門やプライベートの話だったそうで、もうひとつプライベートに関する話がありました。トーマ君ネタです(わーいわーい)。この時期足を傷めていて全国のトーマ君ファンから心配されていたトーマ君ですが、散歩には行っているそうです。そして帰えろうとすると「もう歩けません」と言うのだそうです。「ほんとは言いませんよ」と森先生は断わりを入れておられましたが、森先生には言ってるも同然なんでしょう(微笑)。そんなトーマ君ですが、しかし、反対方向には歩いて行くそうなんですね(笑)。あと、娘さんが散歩に連れて行ったとき同じようにトーマ君は歩かなくって、15kgもあるというトーマ君を抱えて帰ろうとしたらしいですが途中で電話してきたそうです、娘さんが。森先生がおっしゃるには「犬を抱えて帰ってくる姿を見られて、どれだけみじめな思いをしたかを伝えたかったんでしょうねぇ」とのことで、オチはないですよと言われましたがなんだかちょっぴり切なくなるお話です。こういうことはよくあるみたいで、「両親が出掛けると誰かが具合が悪くなりますね(笑)」ともおっしゃっていました。

さて長くなりましたので、次のOHPからは【中】へ。

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