テクノフェア名大2001 森博嗣研究室公開講座
「新しいコンクリート技術」

2001.6.9(土)


★2001年6月、名大祭期間中の名古屋大学にて開催されたテクノフェア名大2001の研究室公開として工学部4号館にて開講された、森博嗣先生の講義と実験の模様をまとめた内容になっています。できる限り見てきたものを忠実に書いているつもりですが、ほとんどが自分の専門外の話ですし、おそらく間違いも随所に盛り込まれていると思います(<盛り込むな)。森先生の発言もそのままということはないでしょう。また、すべてが時系列に沿って記述されているわけではなく、関連性のある事柄を意図的につなげた部分も存在します。その場の雰囲気や感じたことなどは、言葉にした時点で真実ではなくなっているものだということを、あららこめご了承の上で読まれることをお薦めいたします。なお、専門的な部分の間違いがあるとすれば、それはもちろん森先生の間違いではなく、明かに記述者(僕のことです)による間違いであることをここに高らかに宣言しておきます(なにも宣言するこたぁないが)。

◆導入編

 講義の場所は工学部4号館の1階、入ってすぐのところにある輪講室でした。中に入るとやはりチラホラと見知ったぱふぇら〜の姿が(笑)。顔を合わせるなりお互いに会釈です。部屋の広さは小学校の教室より少し狭い感じ。席は50席ほど用意されています。入ったときはすでに結構な人数が座っていましたが、それだけに室内の静けさが余計際立っていましたね。普段の大学の講義前とはえらい違いの静けさです。空いていた一番後ろの席に座ると、スタッフと思しき方からパンフレットらしきものを渡されました。何かと思ったら環境学研究科のパンフレットです(間にテクノフェアについてのアンケートが挟まっています)。これについてはすぐ後に森先生から簡単な説明があります。その森先生ですが、予定の開始時刻(午後1時)までは向かって左正面の方に腰掛けておられ、後ろの席からはその姿は人陰に隠れて見えません(笑)。相変わらず小柄な先生に胸キュンです(死語か)。何やらスタッフの方に指示を出されたり打ち合わせをされている模様。ただ時間を待つ聴衆。そしていよいよ我々に向かってしゃべられた森先生の第一声が「もうちょっと待ってくださいね。もう1分半くらい」でした(うずうず)。

 待つこと1分半(笑)、おそらく正確に午後1時になったときでしょう、ついに至福のひとときが始まったのです(講義が開始されたってことです、念のため)。まず森先生は、ご自分の研究室(というか建築学専攻全体)がこの4月から環境学研究科に移ったこと、その経緯を軽く説明され、一応その広報に携わっているので研究科のパンフレットを配ったのだということを我々に伝えられました。ただし、パンフレット表紙のデザインをされたわけではないとのことです。その表紙は実は以前作られたポスタ(これですね)を縮めて作ったものなので、解像度が落ちてしまい、グラデーションの所が斜の線の縞模様になってしまっているそうです。森先生曰く、「これはデザイナの意図していないことで、きっと表紙のデザイナは怒っているでしょうね」とのこと。そういうところに気が回るというのがなんとも森先生らしいです。さて、今回は全部が全部まじめなコンクリートのお話。ミステリィの話はありません(当たり前)。しかし全体を通じて専門の話をされるときの森先生は実に楽しそうした。やっぱり研究者なんだなぁというのを実感したしだいです。
 まず初めに、直径10センチ・高さ20センチくらいのコンクリートの円柱(試験体)を持ってこられ、それでどれくらいの重さまで耐えられるかを説明されました。この大きさで約25トンから30トンの重さを支えることができ、車なら25〜30台分で、小錦なら100人くらい乗っても大丈夫です(「と言われても想像できませんよね(笑)」とおっしゃりながら)。さらに、「もしこの試験体が角砂糖の大きさだったら、小錦1人が上に乗ればつぶれてしまうことになりますね」ということも。あと、コンクリートでできたウルトラマンの人形iMac(キーボードつき)も軽く紹介され机の上に置かれました。
 さて、いよいよ本題に入っていこうというところで森先生は「この中で建築を専門にしている人はいますか?」と訊かれました。しかし、誰も手を挙げず。このテクノフェアでは企業などの専門家向けに話をされることもあるそうで、そういうときは結構最先端の話をされるそうですが、今回は誰もいなさそうなので基本的なことから説明されることになりました。そうこうするうちにも人がだんだんとやってきて席はほぼ埋まり、最終的には廊下で立ち聴きする人も現れるほど盛況な講義でした。


◆基礎編

 まずは「コンクリートとは何か?」です。ここからしばらくはOHPを使った説明が続きます。コンクリートの主要な材料としては、「水」「セメント」「砂」「砂利」の4つがあり、「水」には普通の水道水を用い、「セメント」とは石灰石を焼いて作った工業製品(これは輸出するほどあるらしい)で、「砂」は幼稚園の砂場からというのは森先生の冗談で(笑)、「砂利」とともに昔はそこら辺にあったものを使っていたものの、今では両方とも業者から買うようになっているとか。ちなみに「砂」と「砂利」を入れる目的は、コンクリートを混ぜやすくするということもあるそうですが、ほとんどかさ増しのためだそうです。コストを安くするためってことですね。それらの混ぜ合わせの各段階によって以下のような名称が使われています。
 水と混ざったコンクリートは水和反応で一夜にして型枠から外れるくらいに固まるそうで、強度が充分なレベルになるのは1ヶ月くらい後になってから。つまり水との化学反応で固まるわけで、「水を乾燥させてしまった方が早く固まりそう」という考えは誤りです。だからコンクリートをうった後は、むしろ雨が降ってくれた方がいいくらいだとか(ただし、柔らかいうちに雨に降られると水分が混ざってコンクリートが分離してしまうので、うった直後の雨はダメ)。ここで「コンクリートをうつ」というテクニカルタームについてもフォローがありました。簡単に言うと練り上げたコンクリートを型に流し込むことです。とにかく、乾燥するのはコンクリートにとっては良くないことなので、作ったコンクリートを保管するときは普通水の中に浸けておく(養生する)のだとか(これは後ほど実験室で目にすることになります)。そんな性質をもったコンクリートですが、含まれる水の量については少ない方がコンクリートの強度は高くなるのだそうです。「水」「セメント」「砂」「砂利」これら4つの調合の比率はだいたい1:2:3:4(重量比)で、プロが作ると水を0.7%に抑えることも可能だとか。ここで森先生は、

「人を殺してコンクリートの中に埋めたりすることがよくありますが、いや、よくはないですけどね(笑)、それで時間が経ってコンクリートが割れて殺人が発覚することがありますよね。あれは水分が多いからです。ちゃんと水分を少なくして作れば割れて見つかるようなことはありません。それに鉄筋なんか入れたら完璧ですね(笑)」

と少しだけミステリィっぽい話題を提供してくださいました(にこにこ)。ちなみに「砂」と「砂利」の境目は粒径が5ミリメートルないかあるかで、それはこのあたりに自然界の鉱物の粒径の分布の谷間があるからだそうです(つまり「5ミリ以下」と「5ミリ以上」の二つの山を持つ頻度分布になる)。あと、さらに「空気」も加えるのが普通で、体積で5%くらいの細かい泡がコンクリート内部にあった方が、温度差の激しい環境における水分の凍結融解による膨張収縮のエネルギィを吸収してくれるので、コンクリートのひび割れを防ぐことができるという仕組み。その「空気」を入れるには、せっけんのような泡を出す「薬」を混ぜるそうです。その他、最終的な強度に問題がなければ、処理できないような「廃棄物」などを混ぜることもあるという説明がありました。なお、基本的にコンクリートの強度は水とセメントの比率で決まってくるらしいです。

 次のOHPは「コンクリートのよいところ」「コンクリートのこまるところ」ひらがなで書かれているのは、以前小学生向きに作ったものだからで、なにやら人を食ったようなキャラクタが描かれています(森先生談)。「よいところ」としては、以下のような点が挙げられていました。
木や鉄は火に対して同じくらい弱く、だいたい同じような温度で木は燃え鉄は曲ってしまうのに比べて、コンクリートはまず燃えないという利点から、住宅など主に人が住むような建造物に用いられることが多いそうです。それから小学生に材料を渡して好きなものを作らせようとしたとき、木や鉄の場合削ったり穴を開けたりする作業は危険を伴うのに対して、コンクリート(水とセメント)の場合は混ぜて練って型に入れればよいだけなので、比較的安全に加工できるという点でも優れているとのことでした(「アルカリ性なので多少手が荒れることもありますが、死ぬことはないでしょう(笑)」と補足されつつ)。
 「こまるところ」としては、同じ重さを支えようとすると鉄より重くなるということなどがありました(比重は鉄より小さいが大量に使うので全体として重くなる)。

 コンクリート自体の歴史は古く、紀元前4000年頃から使われだしたそうですが、その次のOHPでは、ここ100年くらいの間に爆発的に世界中に普及した鉄筋コンクリートについての説明がなされました。鉄筋コンクリートの構造的な部分はフランスで考案され、材料的な部分はイギリスで考えられたものだそうです。コンクリートと鉄筋は、それぞれ「引っ張りに弱いが圧縮に強い」「圧縮に弱いが引っ張りに強い」などといった特徴があり、お互いの欠点を補い合っています。さらに偶然にも熱膨張率もほぼ同じであり、気温差などによる膨張収縮に対しても調和的に伸び縮みするので、とてもうまくできた組み合せだということでした。おそらくこれほど短期間で世界中で使われた材料はないということで、森先生曰く「未来の人から現代を見ると『石器時代』という名前のように『コンクリート時代』とかコンピュータチップなども含めて『セラミックス時代』と呼ばれるのではないでしょうか」とのことです。

 次はコンクリートの輸送についてのOHPでしたが、古い物だったので「ミキサー」や「アジテーター」と単語の最後に伸ばし棒がついていて、森先生は「今では伸ばしません、これは間違いです」と断られていましたね。ちなみにコンクリートをこねる作業(混練)はほとんど工場で行なっていて、そこに「ミキサ」があります。だからテレビなどで時々紹介される「ミキサー車」というのは誤りで、コンクリートを運ぶ車は本来「アジテータ車」と呼ばれ、コンクリートが分離して不均質にならないようにぐるぐる回して撹拌しているだけだそうです。ここに入っているのが生コンと呼ばれるもので、最近で言うフレッシュコンクリートのことです。なお森先生はHOT WHEELSのアジテータ車を持ってこられて説明されていました(笑)。それから、コンクリートはどんなに混ぜていても水和反応で固まるので、2時間以内にアジテータ車は現場に到着し、コンクリートの打ち込みをしなければならないとか。だから、すごく大きな建造物(明石海峡大橋など)を作るときはそのそばに工場ごと建てて工事をするそうです。セメントもすぐ近くの山を削って作ることがあるそうな。現場に運ばれた生コンはそこで「スランプ試験」という柔らかさをみる試験を受けるそうですが、この部分が森先生のご専門なのです(詳しくは後半で)。カップ状の中にコンクリートを入れて、それを平板上にひっくり返し、カップを上げたときコンクリートがどの高さになるまで流れるかというのを見る試験です。建築分野では元の高さから18±2センチメートル下がるのが条件だとか。それ以上でも以下でも即刻アジテータ車は撤収し中身を捨てに行くというくらいコンクリートの固さはシビアなものだそうです。

 さて、以上がすでに何年も前に確立されている内容で、コンクリートの基礎的な部分に関するお話でした。ここまでが約30分。ここからの後半30分は、いよいよ現在も研究中の最先端のお話、つまり「新しいコンクリート技術」になっていきます。そして用いられる投影装置もOHPからプロジェクタ(パソコンにはPowerBookG4を使用)へ替わりました。


◆応用編

 まずは環境に優しいコンクリート(いわゆるエコマテリアルなどと言われるもの)として研究が進んでいるポーラスコンクリートのお話。の前にまず「環境に優しい」ということに関して。森先生は、コンクリートはなので、山の中にごろごろ存在していてもただ石があるだけなので別におかしくはないこと、コンクリートができるときの水和反応は海底で石灰岩ができるときに起こっている反応と同じもので、それが一夜にして起こっているだけのこと、ゆえに本来コンクリートは自然のものだと言っても差し支えなく、人工的なイメージがあるのはちょっと見た目がそういう風にできているからに過ぎないということを強調されていましたね。このあたりに森先生のコンクリートに対する愛を感じてしまいます(勝手にですが)。で、そのポーラスコンクリートの具体的な機能を見ていくことになるわけですが、ここで“ポーラス”という言葉の説明をされるときに森先生は「ポーラス・・って何でしょうね、ポピュラス・・でもないし、えっと、そう、“極の”という意味のポーラーでもないですね・・」とジョークともつかないことをおっしゃいましたが、レベルが高過ぎたのか聴衆の反応は今一つ(苦笑)、その後すぐに本当の意味の説明に移られました。ポーラスというのは“穴の空いた”とか“多孔性”という意味で、発泡剤のような薬をコンクリートに混ぜることによって隙間の空いたポーラスコンクリートができるらしいです。ここ10年くらいでできた技術だとか。このコンクリートの主な機能としては、 などがあり、用途としては、上に土を載せて植物が植えられる透水性材料として緑化コンクリート、トンネル内に使われる吸音コンクリート海底に沈めて漁場にするなどが挙げられていました。たとえば、堤防に用いた場合、土のままの堤防よりも強度が大きいので洪水時の決壊に対して強く、なおかつその上に植物を根付かせることができるというわけです。こういうコンクリートを作るのには、固まるまでにある程度の柔らかさが必要で、水を多く含ませれば柔らかくなるものの分離して強度も落ちてしまうので、今までは実現できなかったそうです。それができるようになったのは「高性能AE減水剤」という薬のおかげだと説明されながら、先生はホワイトボードにその文字を書かれましたが、そのとき「こんなこと覚えてもミリオネアには出ないと思いますが・・」なんておっしゃるので聴衆には笑いが(笑)。こういうたまに出るジョークが講演会を彷佛とさせますね〜(にこにこ)。この薬を入れると水が少なくてもコンクリートが柔らかくなるので、結果的に整形がしやすくてかつ水分の少ない高強度コンクリートができるんだそうです。このコンクリートは前述のスランプ試験をすると、なんと流れたときの厚さが3センチメートルくらいになる(もとの高さより27センチメートル低くなる)とか。砂利の大きさが2センチメートルくらいですから、ほとんど砂利の隙間に全部流れてしまう形になります。だから当然、型に打ち込む(流し込む)のも簡単で、最近のもので言えば、JRセントラルタワーズのビルに用いられているそうです。これはここ15年くらいの技術。

 その次はもっと最先端のコンクリートで、最先端過ぎてまだどの研究室でも実現できていないという(笑)、インテリジェントコンクリートのお話です。その前に少し背景的な話がありました。よく、「家のコンクリートの壁にひびが入っているが大丈夫か」という質問をされるそうですが、基本的には大丈夫だそうです。それはひびが入るということは引っ張り応力がかかっていることであって、その力は中に入っている鉄筋が受け持つから。逆にコンクリートは圧縮に対する負担を受け持っていて、鉄筋とコンクリートはうまく応力に対して役割を分担しているとのことでした。だから、ひびが入っていても基本的には心配がないとか。ただし、ひびから水分が侵入したりして中の鉄がさびてしまうのは問題があるそうです。とはいえ、ひびが入っても数年のうちなら地震で崩れたりはしないということでしたね。しかし、これは見えるところの話です。心配なのは見えないところのコンクリートのひびで、その問題をクリアしようというのがインテリジェントコンクリートの研究だという展開になるわけです。ここで出てくるのがインテリジェントマテリアルという物質。これには様々なものがあるそうですが、その機能として考えられているものは以下の通り。  ここで少し余談が入ります。この講義の前日森先生はS女子大に行ってある先生に会われて、あるインテリジェントマテリアルを見せてもらったそうです。直径が1センチメートルくらいのボタン電池のようなやつで、温度情報がポイントで記録できるようになっていて全部で2000ポイントほど記録できる代物らしいです(絵を描かれながら説明)。で、「これをコンクリートの中に入れると面白いかもしれないけど、すると取り出すときが大変で、線を外に引っ張っても良いけどそれだったら熱電対を中に入れた方が便利ですし・・」と森先生はおっしゃり、「でも、何かに使えないかな」とは考えておられるそうです。さて、では実際建築分野におけるインテリジェントマテリアルの研究はどうかというお話になるわけですが、残念ながらまだどこもうまいこといっていないそうです。森先生のところでもされているそうですが、まだ思うような結果が出ていないとか。このマテリアルとしては、ガラスのカプセルなどや結晶増殖剤などが考えられていて、いずれも基本的にはひびにしみ出してきて化学反応で隙間を埋める仕組み。これに関していくつかプロジェクタで概念的な絵を見せられましたが、森先生曰く「まあ、こういうことをやっているぞ、とアピールするためのものです」とのこと。ちなみになぜうまくいかないのかはまだ不明で、この研究は引き続き行なっていくそうです。

 その次は森先生がご専門としていらっしゃる、フレッシュコンクリートのシミュレーションについて。具体的には粘塑性サスペンション要素法という森先生オリジナルの解析手法の話です。おそらくこの話は99年の東京の講演会でも少し触れられていますね(えっと、ここらへん?)。まず、そもそもフレッシュコンクリートのシミュレーションがなぜ必要なのか、という疑問に対する回答を述べられました。個人的にはこの話がこの日一番のヒットかもしれません。おそらく後づけの理由だと思われますが、理由なんてものは後から作られるものだと犀川先生も言ってますしね(笑)。で、その理由ですが、「今のところは何の役にも立ちませんが、20年後ぐらいの将来にはコンクリートを練るのもロボットの仕事になっているはずで、人間が練っていたときは経験的にコンクリートの柔らかさを調整することができたものがロボットだとその都度計算して練る必要が出てくるので、そのために今やっているシミュレーションが役に立つかもしれません」ということでした。研究者としてずっと先のことを見据えるのは当然なんでしょうけど、まさかロボットがコンクリートを練る時代のことを考えておられるなんて、なんだかちょっぴりロマンチックですね(にっこり)。それから「解析」という言葉の説明が難しいとおっしゃり、「理論・・でもないですし、実験・・とも違いますね。その二つの間にあるものでしょうか」とご説明。

 そして、いよいよそのシミュレーション結果を見せていただくことになりました。L字型の箱の中の縦棒の部分に小さな球が詰まっていてせき止められています。で、たがが外され多くの球が横方向に流れ出していく様子が写し出されると、会場は驚愕の渦に巻き込まれました(大袈裟)。まるで全体としてはコンクリートが流れるような印象です(そのシミュレーションなんだから当たり前)。えっと、身近なものでたとえるなら、ハチミツが流れ出すような感じですね。実に滑らかに動きます。他にも柔らかさの違うコンクリートの場合とか、L字型の角の部分に3本のつっかえ棒がある場合とか、様々なパターンが披露されました。ちなみにこの計算にはマックを使っても数時間はかかるそうで、見せていただいたのは結果だけのQuickTimeファイルでした。そのスライドバーを左右に動かして再生させたり逆に回したりを繰り返しながら「これを見ているだけで飽きない・・という人はいないと思いますが」などとおっしゃる森先生ですが、ご自身が一番楽しそうにされていたように思います(笑)。その他、粘性の低いさらさらした高流動コンクリートのシミュレーションもありました。あの動きは一見の価値ありですね。感動ものです。このシミュレーションができるのは世界で森先生の研究室だけだともおっしゃっていました(すごいなあ)。

 最後の話は「コンクリートの強度の測定法」について。これに関して材料学のジレンマの説明がまずなされました。実は材料の強度を測ること自体は簡単で、そのものを壊れるまで変形させればいいだけのことなんですが、そうすると使いたい材料がなくなってしまうというジレンマがあるということです。つまり観察することによって状態が変わるという量子力学にも通じるものがあるわけですね。これは大昔から多くの学者を悩ませてきた問題で、現在は同じ条件のものを大量生産してその中からいくつか抜き出しそれらを破壊することによって強度を求めるという方法が採用されているそうですが、根本的な解決はまだされていないとのこと。つまり実際に使う材料の強度は厳密には保証されていないということです(試験を受けていないので)。で、コンクリートはどうかと言うと、実際には場所によって結構強度にばらつきがあるそうです。そしてもう建ててしまった後の建物のコンクリートの強度を知りたい、材料を壊さないでその強度を知りたいとなると、非破壊試験(NDT:Non-destructive Testing)の出番となります。この試験に使われるものとしては、超音波、レーダ、赤外線、X線、物をぶつけたときの弾み方などがあるそうで、外国ではピストルの弾を打ち込んでそのめり込み深さで観ることもあるとか。ここではその中でも超音波による強度の測定の方法が紹介されました。音波とは弾性波で(と説明しかけて「男性の波じゃないですよ(笑)」とジョークが出る森先生)、コンクリートの中では秒速4キロメートルくらいで進むそうです。その超音波を発信子でコンクリートの一端から発信して、反対側にある受信子で受け取り、さらに受信子の位置をずらして得られた連立方程式を解くことによってトモグラフィが作成できるということでした(図がないと説明が難しい)。コンクリートが詰まっている(密)なら超音波は速く伝わり、詰まっていない(疎)と遅く伝わるのでそれらをいくつも組み合わせると内部構造がわかるというわけですね。この技術は医療現場では早くから実用化されていて、お腹の中にいる赤ちゃんを観るのに使われているのと同じ仕組みだとか。しかし、コンクリートではまだ実用的ではないようです。

 以上で講義は終了。この後は、アンケートを書いている時間を利用しての質問タイムとなりました。土木専攻の人からの専門的な質問などもありましたが、それはちょっと難しかったので(苦笑)ここでは分かる範囲のものをいくつかご紹介します。
・粘塑性サスペンション要素法の応用範囲は?
火砕流や土砂崩れのシミュレーション予測に使えるかもしれないそうです。
・もしアジテータ車の中でコンクリートが固まったらどうするのか?
そうならないように2時間以内に全部出してしまうそうですが、もし中で固まったとしたら回転させているのでコンクリートの球がゴロゴロできるだろうけど、そうなったら捨ててしまうとのことでした(まさかアジテータ車ごと捨てるとは思えませんが、そこは訊かなかったなあ・・)
・コンクリートのウルトラマンの人形はどうやって作ったのか?
これはまずウルトラマンの人形の貯金箱を買ってきて、その外側にシリコンをつけてメス型を作り、剥がしたメス型にコンクリートを流し込んで整形したそうです。で、大量生産してネットオークションで儲けようと考えたものの、実はこのシリコン代が3000円くらいかかるそうで、ペイントの手間なんかも考慮すると4000円以上くらいで売れないと元が取れないということがわかり、断念したとか(笑)。「これを4000円で買おうと思う人はなかなかいませんよねぇ(笑)」と森先生はおっしゃっていましたが、ぱふぇら〜なら誰もが惜しみなく4000円くらい出すことでしょう!(僕だけでしょうか) ちなみにコンクリートのiMacは型も一から作られているそうです。


◆実験編

 講義が終了して10分ほど休憩時間がとられました。この間にぱふぇら〜の方数人に改めてご挨拶したり、Aさんには用意していた名刺をお渡ししたり(笑)。みんなぼちぼちと実験室の方に移動。その中でコンクリートの破壊試験の実演が行なわれることになります。移動前、森先生は「非常に汚いところなので驚かないでくださいね(笑)」とおっしゃていましたが、直前の掃除が甲を奏したのか実際行ってみると、案外綺麗なところでした(想像よりも、という意味ですが・・笑)。そうそう、実験室の入口付近には先生のブータン(ビート)が停められていましたよ〜(にこにこ)。実験室の天井は高く2階分くらいの吹き抜けになっています。その奥の方に大きなプレス機が鎮座していて、すでに先生とスタッフの人たちが忙しく準備をされていました。なかなか実験が始まらず、観衆は今か今かと待っています。どうやら圧力を示す針の調子が悪いようでした(デジタル表示もあるので支障はないとのこと)。そうこうするうちに後ろの方にさらに観衆が集まり、ようやく一つめの破壊試験が始められました。

 最初は普通のモルタルです。円柱形の試験体がプレス機にセットされ、先生の手によりスイッチが入れられました。はじめ観衆はプレス機から離れていたのですが、もっと近づいても大丈夫だと言われ、前につめることに(笑)。破片がこちらに飛んでこないようにちゃんとアクリル版で防護されています。徐々に圧力が上がっていき、固唾を飲んで見守る観衆・・・。みんな真剣に見つめます(この後ろ姿は・・)。やがて、ピキッという音。そして圧力が30トンを超えたあたりで本体が破壊(先生は専門用語で別の表現をされたと思うのですが、忘れてしまったので「破壊」としておきます)。これはそれほど派手に壊れませんでした。先生は壊れたモルタルを取り出されこちら側に見せられて地面に。みんな興味津々で覗き込みます。中列くらいに立っていたので全然見えません(苦笑)。後列の人たちには台が用意されていました。そんなことがあり、次からは人が前後入れ替わることに。しかし、気付けばまた中列に立っています(Aさんと顔を見合わせ苦笑い)。しかし前列の人たちに座ってもらうことになって視界は良好、小柄な森先生の姿もばっちりです(笑)。機械を操作したり説明をされるときの先生は終始笑顔で実に楽しそうなので、見ている方もつられてますます楽しくなってきます(らんらん)。

 二つめの試験体には高強度コンクリートが選抜されました。ちなみに実験前のコンクリートはこのように水を張った容器の中に収められています。ここから取り出されてプレス機にセットされます。さきほどのモルタルは水分が60%(水/セメント比だったか)のもので、この高強度コンクリートは20%くらいだということです。今回もゆっくりと徐々に圧力が上げられていきます。再び固唾を飲んで見守る観衆・・。30トンを超えても壊れません。高圧に耐えるコンクリート試験体。さらに上昇する圧力。誇らしげな森先生の笑顔。まだまだ上昇する圧力。そして第一声。しかし、「まだ本体は壊れていませんね」と森先生。まだ上がる圧力。さらに周りが崩れます。それを幾度か繰り返して、50トンを超えたあたりでいつのまにか破壊されていたようです。派手には壊れませんでしたが、本来こういうものみたいですね。ずーと静かで一気にバーンと壊れるのが怖いとのこと。そして、今度も壊れたコンクリートをこちらに見せられながら説明をされる森先生です(さてどれが森先生でしょう?>バレバレ)。そして破片が片付けられ次の準備に移る間、プレス機のお値段の話(今回用いられたものは2千万円とのこと。しかし隣にあったのは教授先生が発明されたもので1億5千万円する代物らしい。「見えないでしょ?(笑)」とは森先生)とか、昔破片が飛んでいってガラスを割った話(プレス機の後方に見えるガラスに貼られたガムテープがその痕跡)とか、あと実験室にあった秘密のあるものをちょっとだけ見せていただいたりも(これは秘密)。

 さらに三つめの試験体もセットされました。今度は圧力を上げるスピードを速くしての試験です。最初のタッチで一気に35トンの圧力がかかりました。その後もどんどん圧力は上昇。60トン付近で微かにパラッと崩れたのち、バーンと派手な音を立てて試験体は破壊されました。このときはさすがにみんなびっくりしていましたね(笑)。先ほどよりも高い圧力まで耐えられたのは、岩石などでも同じですが、ゆっくりと上昇していく圧力よりも速く上昇する圧力に対する強度の方が高いということを示しています。コンクリートの強度を競うコンテストに出すようなコンクリートの場合は、これの3倍くらいの圧力(200トン近く)まで耐えられるそうです。しかし、壊れるときの飛び散り方も凄まじいらしく、人間は実験室の外まで非難して試験するほどだとか(笑)。そうそう、コンクリートが壊れるときの音についてですが、実は音の大きさはコンクリートの性質に直接起因するものではなくて、プレス機の支柱によって聞こえるらしいです。太ければ音は小さくなり、細ければ大きな音が出るそうです。で、以前N●Kの教育番組か何かで取材を受けたことがあって、比較的弱いコンクリートの破壊試験の様子を撮っていったらしいですが、実際はほとんど音もなく破壊されたにもかかわらず、放送では派手な効果音が付けられていたという捏造の話も聴けました(こういうことはよくあるんでしょうね、きっと)。


◆もうあきま編

 これで一応公開講座は終了となり、コンクリートの破片を持ち帰っても良いとのことだったので、みんなわらわら拾います(笑)。そして名残惜しそうにしている我々に向かって、森先生は「もう何もありませんので、さっさと帰ってください(笑)」なんておっしゃいましたね(笑)。とはいえ一気にみんな帰るようなことはなく三々五々です。実験室の入口には、上に土が載せてあって植物が生えているポーラスコンクリートが置いてあり(逆からだとこんなふう)、それを写真に収めたり先生に質問したりもできました(にっこり)。この植物は植えてから2週間くらいのものだとか。そんなこんなでしぶとく実験室に居ようとする我々に向かって、さらに先生は「名大祭は他にも見どころがいっぱいありますので、さあ」とおっしゃって帰途を促されました(わーいわーい<喜んどらんとはよ帰れ)。が、その直後に「ああ、心にもないことを言ってますね・・(笑)」と照れておられたのがまたまたチャーミングです!! あまり長居をするのも迷惑なので、まもなく実験室から外に出ました。そして大阪から来られていたKさんや、MさんHさんに別れのご挨拶をしてその場を後にしたのでありました。と言ってもすぐ近くにある自分の研究室に戻っただけですが。もちろんコンクリートはいただいてきて、現在机の上に置いてあります、邪魔なんですけどね(笑)。<さっさとどければ?

★最後になりましたが、何よりも分かりやすく面白い講義と実演をしてくださった森博嗣先生には心からの感謝を申し上げます。ありがとうございました。またお忙しい中今回の公開講座の準備に時間を費やされた研究室のスタッフの皆様にも感謝いたします。

by しばしん@0283


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